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「自分に嘘をつく日」<後編> [一次創作]

この作品は、エイプリルフールに因んだオリジナル短編小説です。
登場人物に細かい設定はありません。名前すらありません(笑)
苦手と思っていた物を「好き」と偽るうちに……という前向きなお話です♪
ちょっとした暇つぶしにでも、楽しんで頂けたら幸いです(´∇`)

 尚、「自分に嘘をつく日」には<前編>がございますので、まだお読みでない方は、先にそちらからお読み下さい。


自分に嘘をつく日(後編).jpg




『自分に嘘をつく日』<後編>



 事務所に戻ると、営業先から直帰する予定だった苦手な上司が、残業中の専務に報告をしていた。普段はあまり顔を合わせることがないのに、何故今日に限って戻ってくるのか。
 そう思いながらも、まぁ報告が済めば帰ってくれるだろう、とブレンド茶をもう一口飲んでパソコンを起動させる。
「そのお茶、美味いよな。昆布のおにぎりとよく合うんだよ」
 いつの間にか報告を終えた上司が、珍しく話しかけてきた。生憎、昆布は好きじゃない。が、今日初めて買ったんです、といつもより愛想よく振舞ってみる。どうせ今日は、嘘をついてもいい日だ。周りに残っている社員などほとんどいないのだから、痛々しいまでの嘘で応答してやろうと、半ばやけくそで上司に笑顔を見せた。
「夕方からカフェインとると夜眠れなくなるだろ? だから夜遅くに帰社する時は、いつも自動販売機でそれを買ってたんだがね。カミさんが、生協の24本入りを買うほうが安い、って言って箱で買っちまってよ。俺の机の下に大量にあるから、もう1本やるよ」
「へぇ……え、売店のほうが安いのに、わざわざ自販機で買ってたんですか?」
「売店が開いてる時間に戻ってこれた時は、まぁそうしてたけどな」
 売店の閉店時間は夜の9時だ。この人はいったい、いつも何時に帰社しているんだ、と絶句した。が、こちらのそんな反応など全く構わず、彼は自分のデスクの下に行って、ゴソゴソとブレンド茶を取り出す。そしてこちらに戻るや、ほら、と差し出してきた。自分が受け取った後、専務のデスクにも近づいていき、いや昨日も貰ったからいいよ、と断る専務に無理やり押し付ける。
 専務も残業続きで最近夜が遅い。自分もよく残業はするが、せいぜい7時過ぎまで。そんな自分を見送る専務が、この上司の帰社を当たり前のようにしているところをみると、先ほどの話はどうやら嘘ではないらしい。
「それで、だ。お前、ちょっと踏んだり蹴ったりな状況だって聞いたんだがな」
 再びこちらに戻ってきた上司が、デスクにあった指示書に目を通す。
「俺があいつの打ち合わせを代わってやるのが手っ取り早いんだろうけどな……だが俺も、来週九州に出張なんだ。だから今夜、手分けして出来るところまで処理しちまおう」
「え? だってそちらも九州の準備、ありますよね?」
「それはどうとでもなるから心配すんな。最悪は行きの飛行機の中でまとめちまえばいい」
「そんな無茶苦茶な……」
「おい、手伝う気満々で昆布おにぎりまで調達してきたんだぞ。いいから半分書類よこせ」
 ほら、お前の分、と昆布おにぎりを放られ、代わりに指示書を取り上げられた。
 直帰の予定だったのに、この人は俺を手伝うために戻ってきたのか、と思いがけず渡された自分の分のおにぎりを見つめる。いやこの調子だと恐らく、これまでは、いいご身分だ、と眺めていた彼の「直帰」の札が、とてつもない大嘘をついていたのだろう。
「残業代の申請書、ふたり分俺が作って明日出しておきますね」
「俺の分は必要ねぇよ。どうせ出ねぇんだ」
 そこで、ハッと気付いた。役職付きなのだから残業代が出ないのは当然だ。それなのに、こんなワーカーホリックでいられるなんて、と胸に熱いものがこみ上げる。
「でも、一応作っておきますよ。今日の日付に赤丸つけて」
 その申し出に、専務までが一緒になって、うっかり残業代出たりしてな、と大笑いした。
「昆布、ありがとうございます。好きなんで、嬉しいです」
「おうよ」
 自分の言葉に上機嫌な顔を見せ、デスクに戻っていく上司の背。それを何となく見送っていると、真実を知っている専務が、お前いい嘘ついたな、とこちらに微笑んでいた。

 残業を終えて終電の一本前に飛び乗り、上司から貰った未開封のブレンド茶で食べようと、キヨスクでもう一度昆布おにぎりを買った。差し入れの昆布おにぎりの味はやはり苦手だったが、俺は今日これを好きになった、と自分に嘘をついてみる。
 日付が変わる五分前。空腹を通り越して食欲がないのをいいことに、絶対に足りないと言える量で買い物を留めた。ろくに食わなければ、明日には空腹で目が覚める。短い睡眠時間でも寝過ごさずに済むし、その状態で翌朝また昆布おにぎりを買えば、今度は本当に美味いと思えるだろう。今日ついた嘘を、できれば真実にしたい、と上司の顔を思い出す。
「……っ!?」
 アパートの階段を上がったところで、思わず足が止まる。
 廊下の先、自分の部屋の扉に誰かが寄りかかっている。
 薄暗くて顔はよく見えないが、髪が長く、正直気味が悪い。
 引き換えして、交番に駆け込もうかと思った瞬間、人影がハッとこちらを振り返った。
「……お帰り」
 聞き間違えようのないその声。
 顔は見えなかったが、それは紛れもなく、昨夜から自分の心を引っ掻き回している女のものだった。
「あんた……何してんの?」
「昨日のメール、真に受けちゃって、私急いで自分の家に帰ったのに……いなかったから」
「メール? 昨日って……」
 ── 会いに来ちゃった☆ 玄関、開けて?
 ── 無理だな。今、あんたの部屋の下にいるから。行き違いか、残念だ。
 まさか、と思った。
「ほんとにいたのかよ……」
「馬鹿だよね。自分が先に冗談でメールして、反応、試したのに」
「悪ぃ……ていうか、あれじゃ信じねぇよ。お袋まで同じようなメール送ってきたし」
「うん、ごめん……え? おかあさんも?」
 鍵を取り出しながら近づくと、彼女の唇が薄っすらと紫がかっているのが分かった。夜はかなり冷え込むというのに、いつからそこにいたんだ、と思わず舌打ちしたくなる。しかし、こちらの心配などお構いなしに、血の気の引いた顔で彼女はクスクスと笑い出す。
「なぁ、今夜……どうすんだ」
 自分が乗ってきた電車の20分後に、終電は行ってしまった。
「一応、お泊りセットは持ってきた」
「…………」
「……引いた?」
「……いや」
「ついでに白状するとね……昨日も、持ってたんだよ?」
「…………」
 寧ろ何で、それをバレンタインでやってくれなかった、と言いたくなる。
 もう買ったおにぎりも食べないで、そのままなだれ込んでしまいたい。そんな衝動にかられた時、スーツのポケットで携帯が震えた。発信元を見て、今度こそ本気で舌打ちする。
「悪い、ちょっと出る」
 扉を開けて彼女を中に促しながら通話ボタンを押すと、もしもし? と母親の声がした。
「どうしたんだよ、こんな夜中に」
『家に何度か電話したのよ。でも携帯は残業中だといけないと思って。留守電は聞いた?』
「今玄関だ。残業して帰ってきたところだよ。で?」
『あら、そうなの? てっきり結婚する彼女と、本当に一緒にいるのかと思ったわよ』
「…………」
 適当に腰掛けてくれ、と合図を送ったまま、彼女を見つめて思わず固まる。
『もしもし? あら、やだ。もしかして、そこは本当だったりする?』
「……いや、それはほら昨日──」
 エイプリルフールだったから、と出掛かった言葉を、ぐっと飲み込んだ。
 昨日は確かに嘘だった。
 でも、もう日付は変わった。嘘、にはしたくない。
『まぁいいわ。今帰ったところなら、疲れてるでしょうから、ゆっくり休みなさい。本当に結婚するのか、ちょっと気になっただけだから。とりあえず、元気そうでよかった』
「……あぁ、今度顔出すから」
 楽しみにしてるわよ、と受話器の向こうで笑った母親に、声には出さず、ただ微笑んで通話を切った。
「悪ぃ……おぃ、何がおかしいんだよ」
 楽しげに笑っている彼女の横をすり抜け、点滅する自宅の電話の留守電ボタンを押す。
「おかあさんに、優しいんだね。何か、話してる時、すっごく可愛かった」
 男に可愛いはねぇだろ、と苦笑して視線を向けると、彼女は恥らうように、さっとそれを外してしまった。蛍光灯の下で光る白い肌は、血の気が戻るどころか紅潮している。
 手も洗わないうちに、そのふくよかな胸に触れていいものか、躊躇っていると、
「あ、ご飯食べた? い……一応、おにぎりなら買ってあるよ?」
 はぐらかすように、鞄から慌しくコンビニのビニール袋を取り出す。
「あぁ、俺もひとつ買ってはあるんだけど……あんたは?」
「実は、まだ……」
「じゃぁ先食うか。賞味期限切れちまう」
 そうだね、と言いかけた彼女が、こちらが出したおにぎりを見て目を丸くする。
「ふふふ、同じの買ってる」
 そう言って、袋から昆布おにぎりをふたつ取り出す。
「昆布3つかよ」
 その前に上司の差し入れをひとつ食べている。昆布攻めもいいところだ。
「コーヒーもあるんだよ。確か好きだったよね?」
「いや、これはブレンド茶で食う」
「確かに、おにぎりにはそのほうがいいね」
「まぁカフェインレスだから、夜飲むにはいいしな。あんたもいるか?」
「私はコーヒーにする。だって……」
 寝ちゃいたくないもん。
 自分でそう言っておいて、赤面しながら、何故かこちらに背中を向ける。
 やっぱりおにぎりは明日美味しく食べよう、そう決めて、彼女の背に手を伸ばした。

-END-

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